バンクーバー国際映画祭(VIFF)は、3月18日から「ビヨンド・ジブリ」と題して「新世代」の映画製作者のアニメ作品を上映する。その中から注目映画を4本、紹介する。
*VIFFから読者プレゼントあり!詳細は文末に。お見逃しなく
(取材 小川悠 Photo VIFF)
東日本大震災をテーマにした
Suzume
(邦題 すずめの戸締まり)
九州の静かな町に住む17歳の鈴芽(すずめ)は、ある日扉を探しているという旅の青年・宗像草太に出会う。彼を追って、山の廃虚に着いたすずめは、佇む古びた扉を見つけ、その扉を開けてしまう。その扉は、開けた向こうから災いがやってくる扉。すずめが扉を開けたことで、日本各地に点在する扉が次々に開き始める。
「君の名は。」「天気の子」の新海誠監督が、日本各地の廃墟を舞台に、災いの元となる「扉」を閉める旅に出た少女の冒険と成長を描いた長編アニメーションである。音楽は、新海監督と3度目のタッグとなる「RADWIMPS」が担当した。
本映画は、2023年の第73回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門と、2024年の第81回米国ゴールデングローブ賞のアニメ映画賞にノミネートされている。 冒険、成長、友情、愛情など様々な要素が入っており、家族で楽しめる内容である。
仮想世界を舞台にした、心に傷を負う少女の物語
「Belle」
(邦題 竜とそばかすの姫)
「サマーウォーズ」「バケモノの子」「未来のミライ」の細田守監督による、インターネット上の仮想世界を舞台にした作品。母と一緒に歌うことが大好きだった少女は、母の事故死をきっかけに、歌うことができなくなり、心を閉ざしたまま女子高生に。ある日、友人に誘われて、全世界で50億人以上が集まる仮想世界「U(ユー)」に参加する。
現実の世界では歌うことができなかった自分が、その仮想世界では「ベル」というアバターを使って自然と歌えるように。Uで自分の作った歌を披露するうちに、歌、声のメッセージ性、アバターであるベルの美しさから、世界中から注目される歌姫的存在になっていく。だがある日「U」の世界で恐れ嫌われている竜の姿をしたアバターが現れる。
「サマーウォーズ」でも取り上げられたインターネット上の仮想世界が、細田監督によって12年ぶりに別の物語の舞台として再び描かれる。また仮想世界でアバターに起こる出来事は、現実社会の人間にも繋がっているだけに、遠い未来の出来事ではないような感覚に陥るだろう。随所に歌が使われ、主人公すず/ベル役はシンガーソングライターとして活動する中村佳穂。メインテーマの作詞作曲は日本でも人気のロックバンド「King Gnu」の常田大希が担当し、話題になった。
テレビ版では描かれなかった死闘がアニメ化「The First Slam Dunk」
(邦題 The First Slam Dunk)
「週刊少年ジャンプ」で1990年から96年まで連載され、今でも絶大な人気を誇るバスケットボール漫画の金字塔「SLAM DUNK」。新たなキャストでアニメーション映画化した。今回は、1990年代にテレビ放映時にはアニメ化されていなかった原作のクライマックスが映画されている。原作ファンにとっては、待ちに待ったアニメ化である。
原作者の井上雄彦が監督・脚本を手がけていることも話題になっている。 原作では、バスケットボール未経験、ど素人かつ不良の桜木花道というキャラクターが主人公となり、一目惚れした女子のために始めたバスケットを通じて、彼の成長とチームの成長を軸に描かれていたが、今回の映画では、チームメイトの宮城リョータのエピソードが中心だ。チームの成長と壮絶な試合を描く。
公開されるやいなや、爆発的人気となり、2023年日本国内興行収入1位、第46回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞受賞をした本作品。原作を知っていても、知らなくても、見てみたい話題作である。
「君の名は。」の新海誠監督による繊細な恋の物語
5Centimeters Per Second
(邦題 秒速5センチメートル)
2016年「君の名は。」で話題を集め、その後「天気の子」「すずめの戸締まり」で人気を不動のものとした新海誠監督による2007年の初期作品。 3本の独立した短編アニメではあるが、登場人物はすべて繋がっており、惹かれ合う男女の物語をひとりの少年を軸にして描かれた連作だ。
少年の人生に沿って話が進むため、一作目「桜花抄(おうかしょう)」の舞台は少年が小・中学時代を過ごした1990年代前半の東京、二作目「コスモナウト」は、少年が高校時代を過ごす種子島、そして三作目「秒速5センチメートル」は少年が大人になり社会人として働く東京と舞台が変わる。
ファンタジー、冒険といった物語を彩る大きな出来事はないが、惹かれ合う男女を、時間、距離の変化とともに丁寧に描く物語は、繊細な心理描写と叙情的な景色が逸脱だ。誰もが一度は経験したことがあるだろう初恋を思い出させる作品である。なお、秒速5センチメートルとは、「桜の花びらが舞い落ちる速度」である。映画のタイトルになった意味を考えながら映画を見てほしい。
【2024年ビヨンド・ジブリのラインアップ】
- On-Gaku: Our Sound(2020年)【音楽】
- Promare(2019年)【プロメア】
- Goodbye Don Glees!(2023年)【グッバイ・ドン・グリーズ!】
- Belle(2021年)【竜とそばかすの姫】
- The First Slam Dunk(2022年)
- Blue Giant(2023年)
- 5 Centimeters Per Second(2007年)【秒速5センチメートル】
- Suzume(2022年)【すずめの戸締まり】
日程:2024年3月18日~3月30日
時間:様々な時間帯で開催予定。ウェブサイトを参照。
場所:VIFF Centre – Vancity Theatre and Studio Theatre 1181 Seymour St, Vancouver, BC V6B 3M7
料金:19歳以上 15ドル、18歳以下 8ドル。