13年前の東日本大震災を受け、防災対策の重要性を再認識する3月。被災経験のあるアベナオミさんが紹介する『災害への備え』は、バンクーバーに住んでいる私たちも、参考にできることがあるかもしれない。今回はアベさんからお話を伺った。
(イラスト:アベナオミ 取材: パーバッカー真智子)
「防災」って言いますが、一体何から始めれば良いのでしょうか?
防災は特別な準備をしておくことではなく、日々の簡単な積み重ねです。そう思うようになったのは、自分が被災した時に「半世紀以上前の祖先たちは、電気や水道などのライフラインと呼ばれるものがなくても生活をしていた」と気づいたから。大事なことは、ライフラインがストップしたときに最低限困らないように準備しておくことです。
その鍵となるのが「環境づくり」「食事と水」「トイレ」です。
怪我をしない家庭環境を作る
地震では怪我はしません。揺れて動いたもので怪我をします。そのため家にあるガラス製品を減らす、動きそうなものは耐震マットで固定するなど、周りを見渡して、怪我をしそうなところに対策を施していきましょう。毎日生活していく家では、お気に入りのものに囲まれていたいですよね。だから我慢したり無理をするのではなく、日々のちょっとした工夫でどうやって防災できるかを考えることが大切です。
充分な食事と水の確保
保存のきく特別な非常食を準備しておく必要はなく、非常時に食べれるものがあれば良いんです。普段から食べているレトルト食品、缶詰や野菜ジュースなどを常備しておく。ちょっとお湯を沸かすために、カセットコンロを置いておくのも良いですね。断水時にはコック付き給水タンク、給水所に水を取りに行くためのカートなどがあると役立ちます。
たっぷりの非常用トイレの準備
災害時、一番困るのがトイレ。食事はしばらくとれなくても我慢できますが、トイレは絶対に我慢できないです。災害時は水が使えない状況が多いため、いつでも用が足せるように、自宅に充分な非常用トイレを用意しておくと安心です。
ほかにも準備しておいたほうが良いことってありますか?
アベさん:「備え」には個人差があります。みなさん住環境や家族構成が違うのが当たり前で必要なものは変わってくるので、自分たちにあった対策をしていないと意味がありません。まずは「我が家のリスク」を洗い出すことが必要です。
- 住環境の違いによる備え
住環境によって用意しておくものは変わります。例えば、古い家では倒壊を考えて脱出用具(ハンマーやバールなど)やヘルメットが必要ですが、 免震マンション(他の建物に比べて建物自体が揺れにくく、破損しにくい構造のマンション)では家にいる方が安全な場合が多いため、脱出用具よりも家に数日籠れる準備が重要になってきます。周りを見渡して災害時に降りかかるリスクを想像し、準備をしてください。
- 自分たちに合わせた備え
薬、アレルギーを考慮した食事、年齢や性別によって必要なもの(ミルク、離乳食、おむつや生理用品など)など、各家族によって必要なものは異なります。自分たちが必要なものを考え、揃えて置くことが大切です。
- 備えのアップデート
家庭や個人の状況(年齢やその時必要なもの)は刻々と変わるし、食べ物には消費期限があるため、その都度、現在の状況を把握して新たな準備をしていく必要があります。
実際に災害が起きた時、まず初めにすることは?
アベさん:一番大切なのは「自分の命をどう守るか」です。家族とどこで落ち合うとか、これから何が必要で生活がどうなるかということは「自分の命があってこそ」の話。
そのためには、普段から防災や災害時に役立つ知識をアップデートしていくことは重要で、災害時にはその知識を使い、自分が置かれている状況を瞬時に把握して、動いていかなければなりません。
自分の置かれている状況の把握
地理的状況(近くに山や海があるなど)、今いる場所の状況(建物の外であれば周りに倒壊や感電するようなものがないか、建物の中なら築年数や構造、火事などのリスクがないかなど)を判断して、どう動けばリスクが減るかを考えましょう。自宅にいるほうが安全だと判断できたら、自宅に留まることを私はオススメします。
自分の命を守るための選択
災害が起こった時は家族が同じ場所にいないことも多いです。そうなると家族の安否が心配になりますが、その際にも自分が生き残ることを一番に考えてください。私の友達で、子供を学校へ迎えに行く途中で津波に巻き込まれた方がいました。その方の職場も、子供の学校も高台にあったのですが、学校までの経路で海沿いを通る必要があって。一番大切なのは家族全員が生き残り、後々でも再会することです。
防災士としての願いを教えてください。
防災の始めの一歩は、「災害が起こったら、うちはどうする?」と家族みんなで想像し、話すことです。3月になると、テレビで追悼番組がやっていたり読み物でも地震関連の特集が増えます。それが「防災について考えるきっかけ」になって、防災の大切さに気づく方が増えていけばよいなと願っています。
アベなおみ:イラストレーター、防災士。宮城県仙台市在住。長男が1歳7か月の時に3.11(東日本大震災)を経験したのち、イラストなどを通して防災の大切さを広める活動を行う。
ブログ:うさぎとお絵描き
Instagram:@abenaomi
Youtube:
・防災士イラストレーター アベナオミの一日一防災
・花は咲く 3月11日 豆キチの母・防災士アベナオミバージョン
・「命を守るために」東日本大震災で失われた幼稚園の子ども達(イラスト担当)