6月20日から始まるバンクーバー国際ジャズフェスティバルは、今年で40周年。カナダ西海岸に夏の訪れを告げるこの一大イベントに、今、地元でひそかに注目を集めている若手アーティストがいる。リッチモンド出身のサクソフォン奏者、ゴーディー・リー君だ。若干20代と見られる彼の演奏は、自由奔放で、どこか切実な輝きを放っている。
クラシックからジャズへ——音楽と育った少年時代
ゴーディー君が音楽と出会ったのは、6歳の頃。「周りの子どもたちがみんなピアノを習ってたんです。だから自分も普通に始めた感じ」と彼は笑う。母親の好きだったショパンを一緒にCDで聴きながら、ロイヤル・コンサーバトリー・オブ・ミュージック(RCM)のクラシック教育を受けて育った。
その一方で、彼が密かに惹かれていたのが、ジャズの巨匠・オスカー・ピーターソン。クラシックの楽譜の向こうに広がる、もっと自由な世界に、彼の耳は確かに向かっていた。
やがて小学校6年で学校のバンドに入り、中高生時代にはジャズバンドで活動。「ジャズって、他のジャンルよりも“制限が少ない”んです。今まで会った人、経験したこと、自分の全部を音楽で表現できる」。そう話す彼の言葉には、音楽が生活そのものであることが滲んでいた。
高物価都市で夢を追う——ミュージシャンというリアル
今、彼はサクソフォンだけでなく、コンピューターやシンセサイザーを駆使して作曲もし、キーボード演奏もこなすマルチな表現者だ。ジャズを軸にしながら、さまざまなジャンルの地元アーティストとも共演を重ねている。
だが、音楽で生きていくことは簡単ではない。特に、バンクーバーのような高物価都市ではなおさらだ。「旅に出てみたいけど、お金がない」と彼はぽつりと言う。生活のために夢を一時的に保留にせざるを得ない仲間たちも多いという。
「親の家に住めてラッキーですよ」と軽く笑うが、その背景には切実な現実がある。音大を出ても、フェスやコンクールで賞を取っても、プロの道を歩むのは決して容易ではない。だからこそ、彼は今この瞬間の演奏にすべてを込めている。
ジャズの核心——即興と“ギグ”で磨かれる才能
ジャズの醍醐味は即興=インプロバイゼーションにある。その時の気分で楽譜を無視するくらいが面白い。曲中で他の楽器と“せめぎ合い”ながら進み、最後にメロディに戻る——そのスリルが音楽の核心だ。
また、ジャズ界では「ギグ」と呼ばれるセッションが日常的に行われている。ゴーディー君も複数のグループを持ちながら、異なるミュージシャンたちと即興演奏を楽しんでいる。そのなかで、経験と人脈、そしてプロとしての信用が積み重なっていくのだ。

昨年バイク事故で手を負傷し、フェスに出られなかったゴーディー君(Photo Gordy Lee)
カウボーイビバップで魅せる、今年のステージ
そんな彼が、今年のジャズフェスで出演するのが、アニメ『カウボーイビバップ』の音楽を再構築したバンド。7月1日に行われる無料コンサートでは、作曲家・菅野よう子による名曲「Tank!」などを若手ミュージシャンたちの解釈で新たに蘇らせるという。
実は昨年、ゴーディー君はバイク事故で手を負傷し、フェスに出られなかった。「本当に最悪でした…」と語りながら、当時のギプスを見せてくれた。
その悔しさをバネに、今年のステージは彼のエネルギーが爆発するに違いない。
バンクーバー国際ジャズフェスティバル公式サイト
https://www.coastaljazz.ca
ジャズフェスティバルの詳細はイベント情報から
2025年6月のおすすめスポット
カウボーイ・ビバップ・ビバップ・バンド
2025年7月1日(火)
会場:Ocean Artworks (グランビルアイランド)
開演:午後8時15分/入場無料
カウボーイビバップ・ビバップ・バンドは、バンクーバーを拠点とする若手ジャズミュージシャンたちが集い、90年代のカルト的人気を誇る日本のアニメ『カウボーイビバップ』の音楽を演奏するグループ。サウンドトラックの中から、有名曲から隠れた名曲までを演奏します。https://www.coastaljazz.ca/event/cowboy-bebop-bebop-band/
ゴーディー君のインスタはこちら
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