カナダのフードバンクの仕組みと社会への影響
皆さん、「フードバンク」という言葉を聞いたことがありますか?または、実際に利用したことはありますか?私は数年前、初めてカナダでフードバンクを利用しました。先日、友人にその存在について話したところ、実際に行ってきたようで、「今までフードバンクのことを知らなかったけれど、本当に助かった」とわざわざ連絡をくれました。この言葉を聞いて、私も改めてフードバンクの重要性を感じ、読者の皆さんにも役立つ正確な情報を提供しようと思いました。
フードバンクとは
カナダでいうフードバンクとは一言でいうと「飢餓のない世界、人権保護」という目的で食料を提供する場所です。
カナダのフードバンク団体は1981年にアルバータ州エドモントンで始まり、ブリティッシュコロンビア州(以下BC州)では現在、150以上の団体によるフードバンク活動が行われています。
ここバンクーバー地域では、Greater Vancouver Food Bank(以下GVFB)が中心的な役割を果たす団体として、バンクーバー、バーナビー、ニューウェストミンスター、ノースショアの各地域で、毎月約15,000人の個人や家族、そして150以上のコミュニティ機関に食料を配布しています。GVFBは、1983年、飢餓危機への一時的な救済措置として設立された団体でOur mission is to relieve hunger today and prevent hunger tomorrow(「今日の飢餓を和らげ、明日の飢餓を防ぐ」こと。)を使命として今も活動を続けています。
参照ウェブサイト
Food Banks Canada
Food Banks BC
提供される食料はどこから?
それでは一体食料はどこから来ているのでしょうか?それは協力する企業、農家などからの寄付によります。大量に作りすぎた製品であったり、品質には問題はないけれど店頭におくことができないもの、賞味期限が近い商品、またフードドライブからの寄付などがあります。最近気づいたのは、お酒を販売する州の運営するBCリカーでもフードバンクへの募金を募っていますね。買い物をした際にレジの方から「Would you like to donate for the food bank ?」と聞かれました。
GVFBのホームページによると、2024年に約4,000トンの食料を配布、新規フードバンク登録者数は7000人。経済的不安定さや生活費の高騰の影響で多くの新規利用者が増えていることがわかります。
フードバンクを利用するには?
BC州でフードバンクを利用する際、所得証明は必要ありません。GVFB(グレーター・バンクーバー・フード・バンク)の使命は「今日の飢餓を和らげ、明日の飢餓を防ぐ」ことであり、食料を購入する経済的な余裕がないときのために、BC州民に一時的な支援を提供しています。つまり、利用者自身が必要であることを報告すれば、GVFBはその申告を信頼し、支援を行うシステムです。
ただし、利用する際は登録が必要となってきます。フードバンクの本部や各拠点に事前に連絡し、登録のための予約を取ります。登録日当日は、以下のものを持参してください。
1 政府発行の写真付きID
2 住所証明書(光熱費の請求書や電話料金の請求書など)
3 同居している扶養家族のケアカード(家族の人数によってもらえる食品の量が変わる)
登録が済むと、クライアントカードと呼ばれるものが発行されます。そのカードを該当のフードバンクに持参することによって、週に一度、食品をもらうことができます。どの場所でフードバンクが行われているのかは、団体のホームページで調べることができます。
当日は、決まった配布時間にその場所へ行き、並びます。私の利用したフードバンクは、1時から2時半という短時間での配布時間でしたが、朝9時過ぎから並んでいる人もいました。配布終了ギリギリの2時半頃に行きましたが、まだ私の前には10人から20人くらいの人たちが並んでいたと思います。それでも待ち時間は15分程度。なお、列の最後にいるからといって、もらえる量が少なくなる、ということはありません。登録の際に申請した家族人数分が頂ける量となっているので、早く並んで待っていれば良い、ということではないのです。
フードバンクの利点
食品を提供する側、食品を提供される側、それぞれに利点が挙げられます。食品を提供する企業、農家側からすると、フードバンクに食品を提供することによって、廃棄コストが大幅に削減され、企業、農家による社会貢献、社会的責任の向上につながります。食品を提供される側からすると、一番は食費の軽減。また、フードバンクで提供される食材はランダムであり、普段自分が使ったことのないものも含まれます。それらを料理し、食卓に並べることによって、食への知識が広まり、家族の食育にもなります。実際、私もスパゲッティスクワッシュ(日本だと糸うり、と呼ぶそうですね)をもらい、初めて調理しました。食感がよく味も淡白で料理に使いやすかったです。
そしてこの両者の利点が、食料が必要な人々への支援や、食品ロスの削減による環境保護(食品廃棄で必要となる温室効果ガスの排出を減少)に繋がります。
フードバンクの問題点
フードバンクは、基本的に食料入手が困難とされている人々(無収入、失業保険受給者、年金受給者、貧困層)が主な利用者だったものが、近年では学生の登録が増え、今後も学生の登録者数は増加傾向にあるとGVFBは予想しています。学生によるフードバンク利用増加の原因として、高い家賃、通信費、交通費などを含めた生活費の高騰が主な原因であるようです。学生ビザで来ている留学生にとっては、週20時間しか働くことができないため、生活を支えるのは困難など理由は様々です。
なお、2024年10月には、GVFBは、全国的なフードバンク利用者の増加を受け、留学1年目の学生をフードバンク登録に受け入れないことを決定しました。留学生は連邦政府が留学生に課している財政要件を満たしてカナダに来ているので、最初の年の生活費をカバーできるだけの十分な財政を持っているはずだ、としているのがその理由です。
フードバンク登録をする際に年収など細かい基準が明確に設けられていないために、誰でも利用できる門戸が広いフードバンク。しかしその広い門戸が逆に予想以上の登録者数の増加を起こし、今回のような決定がなされたようです。
また受け取る側としては、企業や農家からの不定期な寄付により成り立っていますので、常に一定量寄付されるというわけではなく、提供される食品も毎回バラバラ。生鮮食品は手に入りにくく、缶詰、インスタント食品が多いようです。
フードドライブ
最後にご紹介したいのがフードドライブという活動です。フードドライブは、個人が家庭で余っている食材、買いすぎた食材などを前述したフードバンクや福祉団体などに寄付すること、または、そのための募金を行うことを言います。
フードドライブは、誰でも気軽に参加でき、募金を行う場合は、The Greater Vancouver Food Bankのウェブサイトから「バーチャルフードドライブ」として募金ができます。
最も身近な場所でフードドライブができる場所というと、スーパーマーケットでしょうか。特にサンクスギビングやクリスマスシーズンになると、スーパーの入口に大きな箱が用意され、お客さんが買った商品をフードドライブとして寄付できるようになっています。寄付する食品のルールは各施設のフードドライブに従うのが一番ですが、寄付する食品の条件として一般的なのは、賞味期限が一定期間以上あるもの、未開封、常温保存が可能なことなどです。また受け入れている商品は以下のリストTOP 10 MOST REQUESTED FOOD ITEMSにあるように食品だけでなく、日用品もフードドライブとして受け入れられているところもあります。私が利用していたフードバンクも、定期的に生理用品、おむつ、ペットフードなどが対象者に配布されていました。
- パスタとパスタソース
- 缶詰および冷凍の肉類と魚類
- 肉の代替品(ピーナッツバター、大豆製品、パッケージ入りナッツ)
- 詰食品(豆類、スープ、シチュー)
- 乳製品(生乳、缶詰および粉ミルク)
- 缶詰の野菜と果物
- 米と全粒穀物シリアル
- ベビーフード
- トイレットペーパー
- パーソナルケア製品
なお、クリスマスシーズンだけで、小売店舗などでは「トイドライブ」と呼ばれるおもちゃを寄付する箱がおいてあります。そのお店で買ったものでも、そうでなくとも未開封のおもちゃであれば誰でも寄付できます。寄付した時の、お店の人々の「ありがとう」の笑顔は今でも忘れられません。
与える、与えられるということ
日本に住んでいた際に、たくさん作った食べきれない料理や家では使い切れない量のお歳暮・お中元を「おすそわけ」として友人、親戚におすそわけしたことが多々あります。旅行先の楽しかった思い出のおすそわけとして、ちょっとしたお土産を買って周りに配ったことはありませんか?
カナダでは、日本のようにお土産文化を感じたことはありませんが、このお土産文化をフードドライブと比較してみると、とても似たようなものなのではと思うようになりました。
カナダでフードバンクを通じて見ず知らずの人から、食品だけでなく日用品をおすそわけとして、与えてもらいました。今度は自分が与える立場になって、おすそわけをしてみようと思い、フードドライブ、トイドライブに食品やおもちゃを提供するようになりました。皆さんも、もし地元や街なかでフードドライブ、トイドライブの箱を見かけることがありましたら、おすそわけの気持ち、ちょっとしたお土産の気持ちで、箱の中に何か入れてみてください。
【最後に】食品ロスについて
今回の記事を書くにあたり、日本のフードバンクのことも調べたのですが、カナダのフードバンクは「Canada where no one goes hungry(誰もが飢えることのないカナダ)」をスローガンに、生活困窮者に食べ物がきちんといきわたるよう人権保護目的なのに対して、日本のフードバンクはそれに加えて、食品ロスの削減を目指した環境保護の観点もあるように感じました。
環境省のホームページによると、令和4年度(2022年度)の日本における食品ロス量は約472万トンと推計されています。これを日本の人口(1億2435万2千人)一人当たりで換算すると、年間約37キログラム、1日あたり約100グラム。お茶碗1杯分のご飯の量です。4人家族ならば1日で400グラムもの食品ロスがあるのですね。
一方で、カナダはどうでしょう。国連の食品廃棄物指数によると、カナダの平均的な家庭は年間79キログラムの食品廃棄物を出しているそうです。これを1日に換算すると、カナダの平均的な家庭では1日約219グラムの食品ロスがあります。日本と比較すれば少なくはありますが、食品ロスを減らすためには、私たち一人一人の意識と行動が重要であることを、改めて考えさせられます。
参照
Food Waste Index Report 2024
我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和4年度)の公表について(環境省)
公益財団法人 日本フードバンク連盟
一般社団法人日本フードバンク協会
こんな記事も読まれています
【重要】日本のパスポート更新に関するお知らせ(2025年3月24日から)
2025年 バンクーバーで初日の出が見れる場所4選