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6月公開 映画「ライフ・イズ・クライミング!」インタビュー

ユタ州の真っ赤な砂岩の中でのロードトリップの様子
6月公開「ライフ・イズ・クライミング!」(photo credit : (C) Life Is Climbing 製作委員会)

オンラインコミュニケーションが急速に広まる今、こんなに人間味溢れる繋がりを見たのはいつ以来だろうか。中原想吉監督による「ライフ・イズ・クライミング!」は、パラクライミング* 世界選手権で4連覇を成し遂げた盲目のクライマー・小林幸一郎さん(以下コバさん)と彼の目となるサイトガイド・鈴木直也さん(以下ナオヤさん)が、真っ赤な砂岩の登頂を目指し、アメリカを旅する様子を描く。バンクーバーでの映画公開に先駆け、その魅力に迫る。(取材 パーバッカー真智子)

*パラクライミングとは…
障害者によるスポーツ・クライミング。競技では、高さ 15 メートルほどの壁をロープで安全確保しながら、選手は壁に設定されたルートを登り、登ることができた高さを競う。競技における障害種別は、国内、国際ともに視覚障害・切断・神経障害の 3 つで、障害の程度に応じパラリンピックに準じたクラス分けが行われる。

クライミング映画だと思って見始めたのですが、旅や友情、また再会など、さまざまな要素が含まれていましたね

中原監督:私は、この映画をロードムービーと捉えて撮影しました。クライミング経験のない人でも、ユタの砂岩エリアを旅している気分を楽しんでもらえる映画だと思っています。また私自身、コバさんとナオヤさんと一緒にアメリカで二週間を過ごし、二人にとってのクライミングがどんなものかも理解できました。

小林さん(以下、コバさん):私は目が見えない障害者ということで、こういう機会があると「障害者のチャレンジ」として取り上げられることが多いんですよね。でも私の中では映画の主人公はナオヤで、障害のない彼が私を特別扱いするのではなく、クライミング好きな友人として普通に旅をして時を過ごす様子が描かれていて。この映画では、人と人との向き合い方や時間の過ごし方をご自身と重ねて見てもらえれば嬉しいです。

鈴木さん(以下、ナオヤさん):僕は今回の映画を通して、出会いで支えられている人生があることを知ってもらいたいです。コバちゃんと僕がお世話になった人たちと再会し、みんなが映画に登場するのがすごく嬉しい。

エリックさんと再会し、話をする様子

お世話になった全盲クライマー・エリックさんとの再会 (photo credit : (C) Life Is Climbing 製作委員会)

アメリカでの撮影に入るまで、とても大変だったと伺いましたが

中原監督:そうですね。まずはアメリカ・モアブでの撮影許可。国内の許可なら1週間程度で出ますが、自然保護区なので手続きにすごく時間がかかって。4カ月後にやっと許可証が発行され、いざ「アメリカへ行こう!」となった時にコロナのパンデミックでロックダウン。いつになったら撮影できるかの見通しが立たなくて、悶々としていましたね。

撮影が、当初の予定から1年半延びたんですよね。その間、どうやって映画制作への意欲を保っていましたか?

中原監督:2013年頃からナオヤさんが海外で撮りためたコバさんとのクライミング映像を、事前にたくさんもらっていて・・・それを観ながらモチベーションを維持しました。クライミング傍らでの撮影なのですが、すごく良くて。映像って、撮る人と撮られる人との距離感がとても出るんですよ。

コバさんがナオヤさんの声を頼りにユタ州の真っ赤な砂岩を登る様子

ナオヤさんの声を頼りに、ユタ州の真っ赤な砂岩を登るコバさん (photo credit : (C) Life Is Climbing 製作委員会)

記者も映画を観て、コバさんとナオヤさんの繋がりがとても強いと感じました

ナオヤさん:「コバちゃんとなら常に会ってなくても大丈夫だ」という安心感があります。周りからは、週一回会って飲んでるんじゃないかって、思われがちなんですが(笑)世界選手権などの大きな大会でも、一緒に練習するのは実は5回から10回ほどなんですよ。

ナオヤさんにとって、コバさんの存在とは?

ナオヤさん:僕の人生で5本の指に入る、一緒にいて楽しい人。僕は「こいつと行ったら楽しいだろうな」って人としか、旅はしないんです。その一人がコバちゃん。そのコバちゃんを僕の好きなところへ連れていくって言う・・・(笑)

コバさんにとって、ナオヤさんはどんな存在ですか?

コバさん:前も今も、ナオヤは私にとって憧れの人です。みんなをすごくハッピーにする楽しい人だし、クライマーとしても素晴らしい技術と経験を持っている。私が持っていないものを全部持っている。目の病気が進行していく中で一緒にさまざまな旅をして、私一人では絶対できなかった経験をたくさんもたらしてくれて。

お互いに拳を突き合わせて成功を喜ぶ様子

「一緒だからこそできた体験がたくさんある」と語るコバさん(photo credit : (C) Life Is Climbing 製作委員会)

みなさんにとっての「クライミング」とは?

コバさん:「友達」
クライミングを始めて40年。離れている時期があったり情熱的に打ち込む時期があったり。だけど、ずっと一緒にいられるっていうのは仲の良い友人と同じなんだろうなと。きっと、これから先もずっと。

ナオヤさん:「人生」
最近はクライミングするチャンスが随分減っていて。そういう自分をクライマーと呼びたくないなって思うのですが、ベースにあるのも、仕事も全部クライミングで、それでごはんが食べていける。やっぱり僕にとってクライミングは人生かな(笑)

中原監督:「人生の喜び」
私はクライマーではないので撮影前にはわからない部分もあったんですが。撮影を通して、人と競ったり記録云々ではなく、何かにチャレンジして、今日の自分は昨日より少しだけ良くなっているってことが、二人にとってのクライミングなのかなと。人生の喜びってそういうことだよね、と。

ズバリ、この映画の見どころは?

ナオヤさん:中原監督がクライマーではないからこそ、クライマーでも、そうじゃなくても、人それぞれ、色々な捉え方ができる映画になっているところですかね。例えばクライマー目線の僕なら、自分が同じ状況で目をつむって登っていたらと想像して・・・「絶対に嫌だな」とハラハラするシーンが印象的だったり。でも皆さんから寄せていただける感想はさまざまで、僕自身やコバちゃん、中原監督も新たな発見や理解をもらえるんです。

編集後記:

インタビュー後、「次はどこを旅するか」と話し始めるコバさんとナオヤさん。候補はアフリカやマダガスカル、タヒチ近くの島だとか。まさに「ライフ・イズ・クライミング!」。その後、監督も加わり、ものすごい熱量で話す三人はとても楽しそうで、映画から感じた温かい空気そのものだった。オンライン上での関わりだけでは決して得られない、人と人との向き合い方や時間の過ごし方など、リアルな繋がりを大切にしたいと改めて思う良い機会となった。

『ライフ・イズ・クライミング!』上映情報

バンクーバー
・日時:6月3日(月)~
・場所:VIFF Centre (1181 Seymour St, Vancouver)

トロント
・日時:6月7日(金)
・場所:JCCC (6 Sakura Way, Toronto)

中原監督、コバさん、ナオヤさんがバンクーバーとトロントの両方で登壇し、質疑応答いたします!またクライミングのイベントなども予定しているので、Momo FilmsのSNSをチェックしてね。

カナダ配給
シンカ:https://synca.jp/
Momo Films:momofilms.com

 

【監督:中原想吉/Sokichi Nakahara】
1976 年 1 2 月 2 日生まれ ╱ 東京都 出身
フジテレビ「ザ・ノンフィクション」で、 2017 年 8 月 13日放送の「 ザ・ノンフィクション ~ある日、視力を失って〜 」の撮影でコバと出会い、本作を製作するにいたる。
映画『WAKITA PEAK 』 (2018 年 )のエグゼクティブ・プロデューサーを務め、本作 で、 商業映画初監督デビュー。現在、インタナシヨナル映画 の代表取締役社長。

中原監督プロフィール写真

「劇映画にはない、ドキュメンタリー映画ならではの感情表現をもっと突き詰めていくことが今のチャレンジ」中原想吉 監督 (photo credit : (C) Life Is Climbing 製作委員会)

【コバ:小林幸一郎/Kobayashi Koichiro】
1968 年 2 月 11 日生まれ╱東京都出身
16 歳の時にフリークライミングと出会う。28 歳で「網膜色素変性症」と言う目の進行性難病を発症し、近い将来の失明宣告を受ける。37 歳 2005 年に NPO 法人モンキーマジックを設立。「見えない壁だって越えられる」をコンセプトに、障害者クライミング普及活動を開始。競技者として、2006 年世界初のパラクライミングワールドカップに出場し視覚障害クラスで優勝、2014 年から 2019 年まで(46~51 歳)、鈴木直也をサイトガイドに迎え、パラクライミング世界選手権視覚障害男子 B1 クラス(全盲)にて4連覇を達成。パラクライミング界のレジェンド中のレジェンドといえる存在。

盲目のクライマー コバさんプロフィール写真

パラクライミング世界選手権で4連覇を成し遂げた盲目のクライマー・小林幸一郎さん (photo credit : (C) Life Is Climbing 製作委員会)

【ナオヤ:鈴木直也/Suzuki Naoya】
1976 年 1 月 18 日生まれ╱東京都出身
15 歳の時にアメリカでフリークライミングと出会う。その後、単身で渡米。2003 年に日本人初のアメリカ山岳ガイド協会公認のロッククライミングインストラクターとなる。2011 年から、パラクライミング世界選手権の日本代表チームに同行。2013 年には株式会社サンドストーンを設立。国内外問わずクライミングガイドをしながらクライミングジムを横浜と大阪で経営する。

コバさんの目となるナオヤさんのプロフィール写真

サイトガイドとしてコバさんの目となる鈴木直也さん (photo credit : (C) Life Is Climbing 製作委員会)

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