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カナダ・ハイダ族の伝統と歴史を知るアート展

カナダ・ハイダ族の伝統と歴史を知る—『Kihl ‘Yahda Christian White: マスター・ハイダ・アーティスト』展
カナダ・ハイダ族の伝統と歴史を知る—『Kihl ‘Yahda Christian White: マスター・ハイダ・アーティスト』展

『Kihl ‘Yahda Christian White: マスター・ハイダ・アーティスト』展

2025年2月1日から2026年2月1日まで、バンクーバーのビル・リード・ギャラリーで開催される特別展「Kihl ‘Yahda Christian White: マスター・ハイダ・アーティスト」。この展示会は単なるアート展ではなく、クリスチャン・ホワイト氏(62歳)のハイダ族に対する情熱と、現在にも受け継がれるハイダ族の深い歴史を体験できる貴重な機会です。バンクーバーにいるという利点を活かし、期間限定のこのチャンスをぜひお見逃しなく。

ハイダ族の伝統と歴史に触れる

今回の展示会では、ハイダ族が経験した辛辣な侵略の歴史、先祖代々から継承されたストーリー、そしてハイダ族特有の文化を、訪れる人に届けてくれます。展示されている精緻な彫刻、マスク、ジュエリーなどは、美しいだけでは終わりません。

クリスチャン・ホワイト氏とは?

クリスチャン・ホワイト氏は、クイーン・シャーロット諸島(The Queen Charlotte Islands)として知られる*ハイダ・グワイ(Haida Gwaii)で生まれました。この島にはハイダ族と呼ばれる先住民族が暮らしており、ホワイト氏もその血を受け継いでいます。

ハイダ族は彫刻やトーテムポールのアートで知られており、ホワイト氏も12歳で彫刻を始めました。今回の展示会では、12歳のときに鯨の骨から制作した「Seal Carving」(1974年)をはじめ、最新作である「House Box」(2024年)まで展示されいて、ホワイト氏のアーティストとしての50年の軌跡を辿ることができます

また、完成した作品だけでなく、作業デスクや下書きなど、制作の過程を垣間見ることができるのも見どころの一つです。

*1 2010年にクイーンシャーロット諸島(The Queen Charlotte Islands)からハイダ・グワイに改称

カナダ・ハイダ族の伝統と歴史を知る—『Kihl ‘Yahda Christian White: マスター・ハイダ・アーティスト』展

ホワイト氏が12歳の時、鯨の骨から作ったという「Seal Carving」(1974年)

次世代アーティストとのコラボレーション

「真実の声」を意味する名前「Kihlyahda」を受けたホワイト氏は、現在は次世代のハイダアーティストたちのメンターとしても活躍しています。展示会では、ホワイト氏が8人の弟子たちと共に制作した共同作品も紹介され、本日(1月31日)行われたメディアイベントでも、積極的に若いアーティストたちを紹介していたのが印象的でした。次世代アーティストを育成する背景には、美しいものを作る技術だけでなく、アートを通じて歴史や文化を伝えるという使命感を感じとりました。

先祖返還活動とハイダ族の歴史

ホワイト氏はアート活動にとどまらず、ハイダ族の先祖返還活動にも積極的に関わっています。これまでに500人以上のハイダ族の先祖の遺骨を故郷ハイダ・グワイへ戻す取り組みをしています。さらに、ホワイト氏は弟子たちと共に、返還された先祖たちを埋葬するためのベントウッド・チェスト(樽型の収納箱)も制作しています。

今回の展示会でキューレターを務め、かつホワイト氏と共に先祖返還活動を進めるルーシー・ベル氏は、「ポットラッチ(ハイダ族の儀式)は1885年から1951年まで政府によって禁止され、関連する品々はすべて没収されました。所持していただけで投獄されたため、私たちの先祖たちはそれらを必死に隠しました。クリスチャンの先祖も家の壁の中に箱を隠し、その箱が見つかり、今回の展示会で公開しています」。

ハイダ族にとっては単なる収納道具ではありません。‘揺り籠から墓場まで’ という言葉が示すように、赤ちゃんを入れるかごとして使われることから始まり、野菜や果物の保管、さらには遺骨を納める埋葬箱としても使われます。人の一生を支える重要な存在であり、ハイダ族の文化や歴史に深く根付いた意味を持ちます。それだけあり今回の箱の展示は絶対に見て欲しい作品です。

 

今回の展示会のキューレターを務め、かつ先祖返還活動をホワイト氏と共にしているルーシー・ベル氏(左)と同じく母親と共にキューレターを務めた娘のアメリアさん(右)

タトゥーの代わりにブレスレット

ハイダ族のジュエリーといえば、ブレスレットが人気のアイテムの一つです。精緻なカービングやストーリー性、それぞれのシンボルに込められたメッセージがあり、お守りのような意味も持つとされています。しかし、今回の取材を通じて、ブレスレットに秘められた歴史的背景を知ることになりました。

ヨーロッパによる植民地化が進む中、ハイダ族の人々にとって腕にタトゥーを入れることが「恥」とされるようになりました。そこで、彼らはタトゥーの代わりにブレスレットを身につけることで、自らの文化を守ったのです。

ハイダ族にとって、タトゥーは氏族の所属やアイデンティティ、社会的地位を示す重要な文化でした。その伝統が抑圧される中、ブレスレットという形で受け継ぐことで、静かな抵抗(Resistance)を続けてきたのです。

ただ「美しいから」と手に取っていたブレスレットも、この歴史を知ることで、単なる装飾品ではなく、誇りと抵抗の象徴として、より深い意味を持つものに感じられます。ギャラリーのお土産店でも、ハイダ族のブレスレットが販売されています。

直接アーティストと交流できるイベントも

展示期間中には、ホワイト氏と弟子たちによるアートデモンストレーションやトークイベントも予定されています。これらのイベントに参加することで、アート制作の過程や文化的背景を直接聞くことができ、展示作品への理解がさらに深まります。

ビル・リード・ギャラリー

ビル・リード・ギャラリーは、ノースウエスト・コーストの現代先住民アートに特化した唯一の公立ギャラリーです。2008年に開館され、著名なハイダアーティストであるビル・リード(1920–1998)の名を冠し、彼の遺産も継承しています。

ビル・リード・ギャラリー


展示会詳細

「Kihl ‘Yahda Christian White: マスター・ハイダ・アーティスト」展

展示期間:2025年2月1日 – 2026年2月1日
営業時間:水曜日から日曜日 11:00 AM – 5:00 PM
住所:ビル・リード・ギャラリー(Bill Reid Gallery of Northwest Coast Art)
639 Hornby Street, Vancouver
ウェブサイトはこちら

●入場料
大人: $10
シニア: $8
学生(有効なIDが必要): $8
ユース(13~17歳): $6
12歳未満の子供: 無料
ファミリー: $30 大人2名 + ユース2名(同一住所に住んでいる場合)

*第一金曜日は2時から5時は無料


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